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Pixel 10、指紋認証で「業界最速」を狙うか?Tensor G5との連携で実現する“無意識”のUXとは

Y Kobayashi

2025年6月18日

昨年のPixel 9シリーズで、長年の課題であった指紋認証の信頼性を劇的に向上させたGoogle。だが、2025年の登場が見込まれるPixel 10シリーズにおいては、さらに高速化された次世代の超音波指紋センサーが搭載される可能性があるようだ。

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なぜGoogleは「指紋」に賭けるのか?Pixel 9で果たされた“悲願”

このニュースの重要性を理解するためには、まずGoogle Pixelの指紋認証が歩んできた、決して平坦ではなかった道のりを振り返る必要があるだろう。

Pixel 6で初めて画面内指紋センサー(光学式)を導入して以来、その性能は多くのユーザーにとって悩みの種だった。競合他社のフラッグシップモデルと比較して、認証速度が遅い、成功率が低い、指が少しでも濡れていたり乾燥していたりすると反応しない――。スマートフォンのロック解除は、一日に何十回、何百回と繰り返される最も基本的な操作だ。この入り口でのつまずきは、端末全体の評価に暗い影を落としていたと言っても過言ではない。

その「負の遺産」を清算し、失われた信頼を取り戻すための大きな一歩が、昨年のPixel 9シリーズで実現した超音波指紋センサーへの移行だった。米国のテックメディアAndroid Headlinesが報じたように、この転換は大きな成功を収めた。光学式がセンサー下のカメラで指紋の「画像」を撮影するのに対し、超音波式は微細な音波を指に当て、その反響から3Dの凹凸データを読み取る。これにより、指の状態に左右されにくく、より高速でセキュアな認証が可能になったのだ。

これは長年のユーザーにとってはまさに“悲願達成”とも言える改善だった。

Pixel 10の「さらなる高速化」が示す、Googleの野心

Pixel 9でようやく競合と肩を並べたGoogleが、なぜわずか1年でさらなる高速化を目指すのか。ここに、同社の次なる戦略が見え隠れする。

一つは、「追いつく」から「追い越す」への意志の表れだ。もはや「基本機能で劣っている」という評価は許さない。むしろ、生体認証という領域において「業界最高水準」の体験を提供するリーダーになる、という明確な野心を持っているのではないだろうか。Android Headlinesは情報源を明かしていないものの、「(Googleが)超音波指紋センサーを再びアップグレードすることを確認した」と強い表現で伝えており、この動きが単なる噂に留まらない可能性を示唆している。

そして、より重要なのが、Googleが推進するAI戦略との連携だ。

Android Authorityが指摘するように、Pixel 10シリーズでは、Tensor G5チップの搭載や、オンデバイスAIアシスタント「Magic Cue」のデビューが噂されている。Magic Cueは、ユーザーのアプリ利用状況などを学習し、次に何をしたいかを予測して適切なショートカットを先回りして提示する機能だと言われる。

こうした「魔法のような」体験の土台となるのが、デバイスへのシームレスなアクセスだ。ユーザーが「スマホを使おう」と意識する前に、まるで身体の一部のようにロックが解除され、必要な情報が目の前に現れる。この「無意識のUX」を実現するためには、ロック解除という最初のステップでのコンマ数秒の遅延すら許されない。指紋認証のさらなる高速化は、Googleが目指すAI主導のアンビエント・コンピューティング体験の、まさに「玄関口」を磨き上げる作業なのだ。

この高速化は、単にセンサー部品の性能向上だけで実現されるものではないだろう。Pixelの最大の強みである、自社設計のTensor G5チップとの緊密な垂直統合が鍵を握る。新しいセンサーハードウェアと、Tensor G5に組み込まれたAI処理ユニットやセキュリティプロセッサが連携することで、ハードウェア単体の能力を超えた速度と精度を引き出す。例えば、指紋データの一部を瞬時に読み取り、残りをAIが高速に補完・照合するといった、ソフトウェアとハ​​ードウェアが一体となった最適化が行われている可能性も考えられる。

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超音波 vs 光学式:技術の進化がもたらす「体験価値」

Pixel 10の進化を理解する上で、改めて指紋認証技術の違いについて触れておくが、以下の様に両者には明確な差がある。

  • 光学式センサー(Pixel 6〜8で採用)
    • 仕組み: 画面下から光を当て、指紋の2D画像を撮影して照合する。
    • 長所: コストが比較的安い。
    • 短所: 指が濡れていたり、汚れていたりすると精度が落ちやすい。明るい屋外など、外部の光に影響されることがある。セキュリティ面で超音波式に劣る。
  • 超音波センサー(Pixel 9で採用、Pixel 10で強化)
    • 仕組み: 人間の耳には聞こえない超音波パルスを指に発射。指紋の山と谷で異なる反響を捉え、3Dマップを作成して照合する。
    • 長所: 指が濡れていても、多少汚れていても高精度に認識可能。光の影響を受けない。3Dデータを取得するため、写真などによる偽造に強く、セキュリティが高い。
    • 短所: 光学式に比べてコストが高い。

Pixel 9で超音波式に移行したことで、ユーザーは「どんな状況でも安定して使える」という安心感を手に入れた。Pixel 10は、その信頼性を土台に、「意識する間もなくロックが解除される」という速度、すなわち究極の快適性を追求するステージに進むことになる。

デザイン、Qi2、新色… Pixel 10ファミリーの全体像

指紋認証の進化は、Pixel 10シリーズにおける数々の改良点の一つに過ぎない。Android Headlinesは、他にもいくつかの興味深い情報を独占的に報じている。

  • Qi2ワイヤレス充電: 新しいワイヤレス充電規格「Qi2」に対応する見込み。ただし、本体のみで完結するのではなく、対応ケースを装着することで利用可能になる「Qi2-ready」仕様になるという。これは、SamsungやOnePlusの最新モデルと同様のアプローチだ。
  • デザイン: 外観デザインは、昨年のPixel 9から大きな変更はないと見られている。
  • カラーバリエーション: Pixel 10/Pro/Pro Foldの各モデルで、鮮やかな新色が用意されるとのこと。
  • 発売時期: 発表が8月20日、発売が8月28日という具体的な日付も報じられている。

これらの情報を総合すると、Pixel 10シリーズは外観の刷新よりも、内部の「体験価値」を磨き上げることに注力したモデルとなりそうだ。

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Pixel 10は「基本」の再定義で、AI時代の覇権を狙う

Pixel 10の指紋センサー高速化は、単なるマイナーアップデートではない。それは、スマートフォンの「基本」がいかに重要であるか、そしてその基本が未来の体験をいかに左右するかを物語っている。

ロック解除という行為は、もはや単なるセキュリティチェックではない。それは、ユーザーとAIが対話を始めるための最初の入り口だ。その入り口を通り抜けることを、より速く、より自然で、より無意識に行えるようになるほど、その後のAI体験はより豊かで魔法のようなものになる。

Googleは、指紋認証という極めて基本的な性能を徹底的に磨き上げることで、来るべきAI時代のスマートフォン競争における、最も重要な土台を固めようとしている。Pixel 10がもたらすであろう「無意識のUX」は、我々がスマートフォンと関わる作法そのものを、静かに、しかし確実に変えていくのかもしれない。


Sources

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