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macOS 26 Tahoe、仮想ストレージに革命:新ディスクイメージ「ASIF」でMacの仮想マシンがSSD並みに爆速化

Y Kobayashi

2025年6月16日

Macユーザー、特に開発者やパワーユーザーなら一度は感じたことがあるだろう。「AppleシリコンMacのSSDは驚くほど速いのに、なぜか仮想マシンやディスクイメージの動作はもっさりしている…」。特に暗号化したディスクイメージの読み書き速度は、まるで一昔前のハードディスクを使っているかのような遅さで、多くのユーザーにとって長年の悩みの種であった。

しかし、その時代は終わりを告げるかもしれない。Appleが次期OS「macOS 26 Tahoe」でひっそりと、しかし強力に導入する新しいディスクイメージフォーマット「ASIF(Apple Sparse Image Format)」が、Macにおける仮想ストレージのこれまでの不満を払拭する可能性を秘めているのだ。

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なぜ従来のディスクイメージは遅かったのか?

ASIFの革新性を理解するために、まずは従来のディスクイメージが抱えていた課題を振り返ろう。

ディスクイメージとは、多数のファイルを一つのファイルにまとめ、あたかも物理的なディスクのように扱うための技術だ。Macではアプリの配布に使われる.dmgファイルでお馴染みだが、他にも暗号化されたデータの保管庫や、仮想マシンの仮想ハードディスクとして広く利用されてきた。

しかし、これらのディスクイメージ、特に「スパースイメージ(UDSP)」と呼ばれる形式には、パフォーマンス上の大きなボトルネックが存在した。

これを例えるなら、「最新のスポーツカー(AppleシリコンMac)に、重くて扱いにくい荷車(従来のディスクイメージ)を繋いでいる」ような状態だ。いくらエンジンの馬力があっても、荷車が足かせとなり、本来のスピードを全く出せなかったのである。特に暗号化を有効にすると、その速度は100 MB/sを下回ることも珍しくなく、数GB/sの速度を誇る内蔵SSDの性能とは比較にもならなかった。

SSDが目覚める。ASIFの驚異的なパフォーマンス

macOS 26 Tahoeで登場するASIFは、この「重い荷車」を、スポーツカー専用に設計された「超軽量トレーラー」に置き換えるようなものだ。そのパフォーマンスは、まさに革命的と呼ぶにふさわしい。

技術情報サイト「Eclectic Light」が実施した早期テストによると、その実力は圧倒的だ。

  • テスト環境: MacBook Pro (M3 Pro) / macOS 26 Tahoe
  • ASIFイメージ(100GB)の転送速度:
    • 非暗号化: 読み込み 5.8 GB/s、書き込み 6.6 GB/s
    • 暗号化: 読み込み 4.8 GB/s、書き込み 4.6 GB/s

この数値がどれほど驚異的か、お分かりいただけるだろうか。暗号化を有効にしても、その速度はMacの内蔵SSDのネイティブ性能に肉薄している。従来の100 MB/sという速度と比較すれば、実に40倍以上ものパフォーマンス向上だ。長年Macを縛り付けてきたボトルネックが、ついに解消された瞬間である。

ディスクイメージ形式チップ暗号化読み込み速度 (GB/s)書き込み速度 (GB/s)
ASIF (新)M3 Pro有効4.84.6
ASIF (新)M3 Pro無効5.86.6
スパースバンドルM1 Max有効2.52.0
スパースイメージ (UDSP)M1 Max有効0.080.08
リード/ライト (UDRW)M1 Max有効0.10.1

Eclectic Lightのベンチマークデータを基に作成。チップ世代の違いを考慮しても、ASIFの性能は他を圧倒している

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なぜASIFはこれほど速いのか?3つの技術的背景

AppleはASIFの技術的な詳細を多くは語っていないが、公開された情報からその高速化の秘密を紐解くことができる。

1. 究極に効率的な「スパースファイル」構造

ASIFは「スパースファイル」として設計されている。これは「使った分だけ物理的なサイズが大きくなる魔法の箱」と考えると分かりやすい。例えば、100GBの容量を持つASIFイメージを作成しても、最初のディスク上のサイズは1GBにも満たない。データが書き込まれるにつれて、その箱は必要な分だけ自動的に拡張される。この効率的な領域管理が、無駄なI/Oを減らし、パフォーマンス向上に貢献している。

2. ホストファイルシステムからの独立

Appleの公式ドキュメントには、「ASIFの内部構造は、ホストファイルシステムの能力に依存しない」という重要な記述がある。これは、ASIFがどのようなファイルシステム(例えばMacのAPFSや、NASで使われるNFSなど)の上に置かれても、その性能を最大限に発揮できるように設計されていることを意味する。これにより、仮想マシン(VM)のファイルを異なるホスト間で移動させる際の効率も大幅に向上する。

3. シンプルで高速な「単一ファイル」構成

従来の高性能ディスクイメージとして知られていた「スパースバンドル」は、実際には8MB程度の小さなファイルの集合体だった。これにより、ネットワーク越しでの扱いやすさなどの利点があったが、多数のファイルを管理するオーバーヘッドがパフォーマンスの足かせになることもあった。

一方、ASIFはすべてのデータを一つのファイルに集約している。このシンプルな構造が、ファイル管理を簡素化し、I/O性能をさらに引き上げる要因となっている。

ASIFの使い方と、知っておくべき「今のところ」の注意点

この強力なASIFだが、現時点ではいくつかの制約も存在する。

作成方法

ASIFディスクイメージの作成は、現在のところmacOS 26 Tahoeに搭載されているツールに限られる。

  1. Disk Utilityアプリ: GUIを通じて、新しいブランクイメージを作成する際にフォーマットとして「ASIF」を選択できる。
  2. diskutilコマンド: ターミナルから以下のコマンドで作成できる。
bash diskutil image create blank --format ASIF --size 100G --volumeName MyASIFVolume /path/to/my_image.asif

    現状の制約と課題

    • Tahoe限定: ASIFイメージを作成できるのは、今のところmacOS 26 Tahoeのみ。
    • hdiutilは未対応: ディスクイメージ操作で一般的に使われるhdiutilコマンドは、まだASIFに完全対応していない。
    • APIの不在: 開発者が自身のアプリにASIF作成機能を組み込むための専用APIは、まだ提供されていない。これにより、サードパーティ製アプリが対応するには、diskutilコマンドを裏で呼び出すなどの工夫が必要になる。
    • 下位互換性の謎: 最も大きな懸念点は、古いバージョンのmacOS(Sequoiaなど)でASIFイメージをマウント・使用できるかどうかが不明なことだ。これができない場合、異なるOSバージョン間でデータをやり取りするユーザーにとって大きな障壁となる可能性がある。
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    ASIFが拓く未来:Dockerも、Time Machineも速くなる?

    これらの制約はあるものの、ASIFがもたらす未来への期待は大きい。

    仮想マシンとDockerの劇的な高速化

    Appleが公式に仮想マシンのストレージとしてASIFを推奨していることからも、その本命が仮想化環境のパフォーマンス向上にあることは明らかだ。Parallels DesktopやVMware Fusionといった仮想化ソフトウェアがASIFに対応すれば、WindowsやLinuxの仮想マシンは、これまでとは別次元の快適さで動作するだろう。

    また、多くの開発者が利用するDocker for Macも、内部的には仮想マシン上で動作しているため、基盤となるディスクI/Oが高速化されることで、コンテナのビルドや実行速度が大幅に向上することが大いに期待される。

    暗号化ストレージとしての新たな選択肢

    高速な読み書き性能は、暗号化されたデータの保管庫としても魅力的だ。機密情報を安全かつ高速に扱いたいユーザーにとって、ASIFは新たな標準となるかもしれない。

    Time Machineへの応用は?

    現状、Time Machineはネットワークバックアップ先にスパースバンドルを使用している。もし将来的にTime MachineがASIFに対応すれば、特に初回のフルバックアップや大容量ファイルの復元にかかる時間が劇的に短縮される可能性がある。

    Macのポテンシャルを解放する鍵

    macOS 26 Tahoeで導入されるASIFは、Appleシリコンの圧倒的な性能を長年抑え込んできた「見えない足かせ」を取り払い、Macの仮想ストレージ体験を根本から変革する、まさにゲームチェンジャーと呼ぶに相応しい新機能だ。

    まだ下位互換性など未知数な部分はあるものの、C-Command社の「DropDMG」のような定番ツールも近々対応を表明しており、そのエコシステムは着実に広がっていくだろう。

    開発者、クリエイター、そして全てのパワーユーザーにとって、ASIFはMacのポテンシャルを最大限に引き出すための重要な鍵となる。今後のAppleからの情報公開と、サードパーティ製アプリの対応に、大いに期待したい。


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